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『チェルノブイリ被害の全貌』には、チェルノブイリ原発事故による汚染地域住民の健康状態は、事故直後に原発で緊急作業に従事した人々(リクビダートル)より悪いかもしれないという記述があります。
(本書を紹介した投稿
http://snsout.blog.fc2.com/blog-entry-5.html)
(本書のデータに関する以前の投稿
http://snsout.blog.fc2.com/blog-entry-7.html)
(135頁)「 リクビダートルは大惨事後、もっとも包括的に[その健康状態を]観察された集団だった。ロシア人リクビダートルが患う12種の疾病群の発生率に関する衝撃的なデータを表5.77に示す。
放射能汚染地域に住む人びとの健康状態が、リクビダートル群より悪いかもしれないと考えるのには理由がある。表5.78と表5.79に、ベラルーシとウクライナの汚染地域に住む人びとの健康状態の悪化に関する総合的な所見を示した。」
それらのデータをグラフ化してみました。まずロシアのリクビダートルはこちら。1993年にはほぼ全ての人(98.9%)に神経系・感覚器の疾患があったほか、明らかに大多数の人が複数の疾患を抱えていたことが分かります。各種疾患の発生率は1986年から1993年の間に概ね十倍から数十倍に拡大しました。


それに対して汚染地域住民のデータは以下のとおりです(注)。
まず北ウクライナ(成人および15-17歳の少年少女)は一見するとリクビダートルとよく似た傾向に見えますが、疾患の構成はかなり異なっています。1992年にはほとんどの人(98.4%)が呼吸器系の疾患を有し、他にも皮膚・皮下組織(60.8%)などはリクビダートルには見られない高率です。筋肉・骨(73.4%)も高い値ですが、リクビダートルと比較はできません。
(注)これらの数値は対象年数が少ないことを除けば『チェルノブイリ原発事故がもたらしたこれだけの人体被害』(85頁の表7-1、86頁の表7-3)
http://snsout.blog.fc2.com/blog-entry-3.html と同じです。

もう一つはゴメリ州(ベラルーシ)に住む15-17歳の少年少女です。これらの子供のうち1997年には82%が呼吸器系の疾患にかかっていました。各種疾患発生率の増加は、増加の大きな疾患で1997年までに百倍から3百倍増加しています。ただしこのデータは事故前の1985年からの数値を含んでおり、対象期間も長い(1985年から1997年)ことが顕著な増加に影響している可能性があると思われます。

これらのグラフからみて、汚染地域住民の健康状態の疾患発生率は、事故発生時の緊急作業に従事した人びと(リクビダートル)に匹敵するほど悪化しているようです。そして疾病の内容は両者の間で相違があります。
3つのデータを比較するグラフを以下に示します。疾病の項目が一致しておらず、年次もずれがあるのですが大まかな傾向の違いはつかめます。
北ウクライナは循環器系、筋肉・骨、消化器系、皮膚の疾患が多くなっています。リクビダートルと比べると、循環器系と皮膚ははるかに上回っており、消化器系は同程度です。筋肉・骨についてはリクビダートルの数値がありません。一方、リクビダートルは神経系、呼吸器系、消化器系、精神障害、内分泌系、循環器系の疾病発生率が高く、北ウクライナより顕著に高いのは神経系、精神障害、内分泌系です。
ゴメリは呼吸器系だけが突出しています。それ以外については成人を含まないためか、各種の疾患が数十倍から数百倍に拡大しても、発生率は他のデータと比べればなお低水準です。

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標準化スコアの特質と代替指標
これまで標準化スコアを使ってきたおもな理由の一つは、異なる疾病・地域・年次のデータを比較するためです。例えば発生率の高い病気ととても低い病気を比較する際、発生率そのものの水準を捨象して平年からの乖離度を見る。また元々年によるばらつきの大きい疾病とそうでない疾病が2011年に通常のばらつきを外れた大きな値となっていたかどうかを見ることにもなります。あるいは人口の多い県と少ない県を比較する際、患者数そのものではなく平年からの乖離度を見る、といった具合です。(もう少し厳密にいうと 患者数=人口×罹患率 と分解できるので、患者数を異なる疾病・異なる県の間で比較すると人口と罹患率の違いが両方影響してきます。)
そうした意味で標準化スコアは優れた指標であり、異例な疾病の増加を見つける上ではとても役に立ったのですが、元のデータに含まれる疾病の規模やばらつきの大きさが捨象される結果、やや抽象度が高すぎて意味をとりづらいという問題があります。
分析の内容に応じてもう少し元データの情報を多く残した指標を使うことで良い結果が得られるかも知れません。例えば患者数を人口で割った罹患率を使えば、都道府県の人口規模は捨象しつつ各種疾病の発生頻度は残すことができます。疾病間の同等な比較は難しくなりますが、同一疾病の都道府県の比較には足りそうです。